切れる老人
私がよく行くデパートの地下にコーヒーショップが二店並んでいるところがある。
ひとつはコーヒー豆を売っている店。もうひとつはカウンターでコーヒーを飲ませる店だ。並んではいても別の店だ。
買い物帰りによく利用するのだが、不愉快な目にあった。
一休みしようとカウンター席に座り注文をしようとしたところ、突然後ろから大声が。
「コーヒーのマンデリンはあるかね」
振り返ると杖をついた老人がデパートの店員に荷物を持たせて立っていた。
「こちらでは扱っていませんが、隣の店にはあると思います」と店員が丁寧に答えた。
「隣?」と不機嫌そうに老人は聞く。
「並んでいますが別の店なんです」
「隣でもコーヒーを飲ませるのか?」と老人。
「いえ、豆を売っているだけです」と店員が答えると、老人は怒り出した。
「ばかもの! コーヒーを飲みたいんだ。豆じゃしょうがないだろう!」
店員はあわてず騒がず、
「申し訳ありません。こちらではブレンドになりますが」
「しょうがない、それでいい。美味しく入れろよ」と言いながらどっかりと座った。
私の方が先客なんだけどねぇ。
自分のことが一番偉いと思ってる人は多い。
一件落着と思って私は「モカゼリー」を注文した。
すると老人は、
「モカはあるのか」と口出しする。
「ゼリーですよ」と私は言ってやった。
老人は「私はゆっくりでいい。魚屋に行ってくる」と腰を浮かせた。
「戻られるまでお待ちしましょうか」と店員が聞く。
「いや、いい。入れておいてくれ。少し時間がたったくらいがコーヒーはおいしい」
「冷めてしまいますが」
「冷めたらまずい。美味しいコーヒーをいれろよ」
老人は立ち上がって魚売り場へと移動した。
ところが、なかなか戻ってこない。
店員は魚売り場の方にちらちらと目を走らせる。困惑しているのがわかる。
「ああいうのに限って、コーヒーが冷めていると怒り出すのよね。切れる老人が多いって聞いていたけど、ほんとだわ。家では相手にされていないのよ、きっと」」と私。
私がモカゼリーを食べ終わって、その店を離れても、まだ老人は魚売り場で店員相手になにやら話していた。
また文句を言っているのだろうね。
その後、どうなったかは知らない。

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